タンデム学習とは

1.タンデム学習の定義タンデム学習の定義

 タンデム学習とは母語の異なる2人がペアになり,互いの得意な言語や文化を学びあうという学習形態のことです。目標言語が得意なパートナーとペアになるという形態の学習は、昔から実践されていますが、タンデム学習は単なる「ランゲージ・エクスチェンジ」とは異なり、「互恵性(reciprocity)」と「学習者オートノミー(learner autonomy)」の原則に基づいて実践されます(Little & Brammerts, 1996)。「互恵性」とは、学習者2人が互いの学習のために協力しあうこと、「学習者オートノミー」とは、学習者自身がなにを、どのように学びたいのか、パートナーからどのような助けが欲しいのかを決め、それを振り返り、自分で自分の学習を管理することです。
 たとえば、あなたがタンデム学習でドイツ語を学ぶ場合、日本語を学習しているドイツ語話者のパートナーとペアになり、2人で学習を進めます。学習時間は、半分の時間をあなたのドイツ語学習に、残りの半分の時間をパートナーの日本語学習のために使います。そして、ドイツ語学習の時間は、学習内容や方法はもちろん、パートナーにどのように助けてもらいたいのか、訂正してもらいたいかなども学習者であるあなたが決め、パートナーに学習を助けてもらいます。反対に、パートナーの日本語学習の時間は、パートナーが決めた内容や方法に合わせて、サポートしてあげます。つまり、タンデム学習は、自分が「学習者」であるときは、自分が学習の主体となって学び、パートナーが学習するときは、パートナーを尊重し、サポートする「学び合い」の学習なのです。タンデム学習はこのような双方向的な学習なので、単に目標言語を学ぶだけではなく、パートナーとのやりとりを通して、深く異文化を学ぶこともできます。

2.タンデム学習の利点

また、先行研究によれば、タンデム学習には以下のような利点があると言われています。

◆第二言語能力を高める(Kotter, 2002;Lewis, 2003;Edasawa & Kabata, 2007)

◆学習者オートノミーを伸ばす(Little, 2003;Sasaki & Takeuchi, 2011)

◆異文化能力を向上させる(Dodd, 2001;Stickler & Lewis, 2003;Woodin, 2001)

◆言語学習の動機を高める(大河内, 2011;脇坂, 2013;Appel & Gilabert, 2002;Bower, 2007;Tian & Wang, 2010;Ushioda, 2000)

日本語に関連するタンデム学習の研究や報告では、以下のような利点も明らかにされています。

◆友達意識が芽生える(大河内, 1996;平中・鄭・羅, 2011;青木・脇坂・欧, 2013)

◆目標言語を話すことに対する自信がつく(目黒, 2007;Stewart & Aoki, 2013;Wakisaka, 2012)

3.タンデム学習の変遷

 ここで少しタンデム学習の歴史的変遷を見ていきたいと思います。学習者ふたりが互いに学び合うという学習形態が実際にいつ、どこで始まったかを特定することは不可能ですが、タンデム学習が「タンデム」という名を用いてなされるようになったのは、1960年代後半のドイツとフランスでのことだとされています。第二次世界大戦後、隣国であるドイツとフランスが再び戦争をしないようにと、独仏青年会(Deutsche-Franzoesische Jurgend Werk: DFJW)が誕生しました。そこで、ドイツの青年とフランスの青年が互いに言語を学び合う「タンデム学習」が行われたのです。その後、1970年代には移民労働者のタンデム学習が、1970年代後半には語学学校でのタンデム学習が行われました。1980年代なかばにはヨーロッパの統合の動きが強まり、その影響で高等教育機関で学生が流動化したことを背景に、大学等でタンデム学習が行われるようになりました。そして、東ヨーロッパ諸国の政変を受け、ドイツが再統一を果たした1989年には、スイスで初めて「国際タンデムの日(Internationalen Tandem-Tagen)」が設けられ、高等教育機関での実践の場はますます広がっていきました。このような実践の場の広がりと共に、タンデム学習に関する知識が蓄積され、実践が洗練されていきました。上に示した「互恵性」と「学習者オートノミー」という2つの原則は実践の中で確立されたものです。
 さらに、1990年代以降にIT技術が急速に発展・普及したことにより、インターネットを介して学習者2人がやり取りを行う、「Eタンデム(eTandem)」がなされるようになりました。とくに、1994年にドイツのルール大学(Ruhr-Universitat Bochum)のBrammertsらによって設立された「国際Eメールタンデムネットワーク(International Email Tandem Network)」はヨーロッパ最大のタンデム学習のネットワークです(Brammerts, 2001/2005;Little & Brammerts, 前掲)。インターネットを使用したこのネットワークは1996年までに日本語や韓国語を含む20言語のバイリンガル・サブネットを形成しました(Tandem-Server Bochumホームページ)。
 2000年代以降は、CMC(Computer mediated communication)の日常化によって、無料のインスタントメッセンジャーや、MOO(Multi-User Domain Object Oriented)、インターネット電話を使用したEタンデムが行われるようになりました。とくに、インターネットを介し、ウェブカメラで互いを見ながらリアルタイムで行われるタンデム学習は、2006年頃からブラジルのサンパウロ州立大学(UNESP)を中心に大規模に行われており、「Teletandem」と呼ばれています。Teletandemの実践は、近年、言語教育に関わる人々から注目されており、今後ますます増えていくと思われます。

4.タンデム学習の種類

 現在行われているタンデム学習の種類を整理したものが下図です。

 タンデム学習とよばれているものには、大まかに「対面式タンデム学習」と「Eタンデム」があります。前者は、学習者2人が実際に会い、同じ時間に、同じ場所で学習活動を行うタンデム学習、後者はペア2人が物理的に離れた場所にいながら、インターネット電話などの情報通信技術を介して学習を行うタンデム学習のことです。Eタンデムには、メールなどのテキストベースのコミュニケーションやヴォイスメールのような口頭のコミュニケーションのように非同時的なもの、チャットやMOOを使用した擬似同時性をもったもの、あるいはインターネット電話やビデオ会議システムなどを介して行われる同時性をもったものがあります。ただし、同時性をもつEタンデムの中で、学習者2人がカメラを介して対面し、より対面式タンデム学習と近い状態で行われるタンデム学習は、2006年以降「Teletandem」と呼ばれるようになっています。なお、インターネットを介して行われるさまざまな形式のタンデム学習の名称は統一されておらず、EタンデムやTeletandemのほかにVideo conferenceやTele collaborationなどの用語でも呼ばれています。